【オリジナルインタビュー】ユ・ジュンサンが語る、自然のままに人に寄り添うーー ユ・ジュンサンの平穏への旅

俳優・監督・音楽家として活動するユ・ジュンサンが日本を訪れた。目的は、米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」への参加。『平穏は静寂にない』と『羽のように軽く』の上映を機に行ったインタビューでは、作品に込めた想いや制作の舞台裏、さらに今後の創作活動への展望まで、幅広く語ってくれた。

「自然のままに生きて、自然のままに撮る」

『平穏は静寂にない』という映画の始まりは、ユ・ジュンサンさんが心に平穏を求めてモンゴルに旅に出ようと思ったところから始まった。

「どうして砂漠で映画を撮ろうと思ったのですか?」

そう尋ねると、ユ・ジュンサンはすぐにこう答えた。

「僕は砂漠がとても好きなんです。砂漠ってどこに辿り着くのかもわからないような決められた道もないですし、たくさんのルートがあるんです。それに、砂漠は日常では見られない風景じゃないですか? だから、面白そうだなって思いましたし、自分の好きな場所でもあるので、一度撮ってみたかったんです」。

「旅のはじまりに、計画はなかった」

旅の始まりに明確な計画はなかったという。ただ、自分が普段考えていることや心の声を形にしたい。そんな思いが、旅と撮影を結びつけていった。

「とりあえず、モンゴルに行こうってなって、マネージャーと音楽をしている友人と一緒に行きました。映画を撮るときは、マネージャーにスマホで動画撮影とか録音をしてもらっているのですが、今回もGoProを持って、スマホで動画撮影をしてもらっていたので、彼に『僕が何か話したくなったら話すから』というくらいで、旅をしながら気楽にやっていこうという感じでした。移動中は何を話そうか考えてはいたのですが、数時間移動して、次の場所に着いて、また移動してと、数日経っていたのですが、ガタガタする車の中で思ったんです。『あー、ツラいな』って(笑)。確か平穏を得るために旅に出ることにして、砂漠の静かな場所で気持ちを整理できたらいいなと思っていたのに、全然平穏ではない大変な旅になっている。でも、それが楽しく感じている自分がいたんです。こんなツラい状況があってこそ、平穏な時間があるのだとガタガタする車の中で思って、『ああ、静けさって騒がしさの中にあるんだな』って思いました。それでタイトルを『平穏は静寂にない』と決めて、そこからいろいろと撮影が始まりました」。

9月の砂漠で雪が降った朝に」

旅は予測できない——その象徴のような出来事があった。

「撮影はもちろんマネージャーが撮るんですけど、そのマネージャーは、すごくガタイが良いのですが、撮影の時はとても精巧に動くので、『いいね、すごいね』って言いながら撮影していきました。でも彼は、自分が一体何を撮っているかまではわかってはいません。そんな風に作っていきました。旅行って次の日に何が起きるかなんて分からないものじゃないですか。だから、旅行を楽しみながら撮っていったのですが。雪が降るはずのない9月に、突然、雪が降ってきたんです。朝、ゲル(モンゴルの円形テント)のドアを開けて外を見たとき、これは現実なのか?と思うくらい。なので、開けてすぐに一度ドアを閉めたんです(笑)。それで、もう一度ゆっくりドアを開けてみたら、本当に雪が降っていて現実だと思いました。実はその日、ソウルで出会った知り合いが亡くなったということを知ったんです。だから、本当に世の中何が起こるかわからないなって改めて感じました。それでというテーマが、自然とこの旅に重なってきたんですよね」。

静けさを求めて旅立ったはずが、移動などで大変な思いをしたユ・ジュンサン。中でも大変だと感じたのは、砂漠での撮影だったという。

「砂漠のシーンは、映画を撮ろうと決める前に撮っておいた映像でした。そこでは、『ここがゴビ砂漠です』と言いながら上まで登るのですが、10分くらいで上まで行けそうなのにいくら歩いても、30分経ってもその場所まで辿りつかなくて不思議な感じでしたし、とにかく一歩一歩前に進むのが大変でした。砂が飛んでくるから口の中にも入るし、自分が頂上として目指した場所に向かっているけど終わりがないし。そしてやっと辿り着いて、撮ったシーンが最後のシーンとなった。撮影した時は、それが映画の最後のシーンになるとは知らずに」。

撮影機材はスマートフォンとGoProのみ。だが、それで十分だったという。むしろ、少人数だからこそ可能な感情の機微が、カメラに映り込んだ。

「その映像って何で撮ったと思います? Galaxyで撮影したんです。僕が表現したい映像をGalaxyならよく撮れるからなんです。砂が舞い上がるシーンとか、太陽の日差し、広大な光景とか、すごく細やかに撮れていました」。

「演技経験のない人々が映す、俳優には出せない自然

『羽のように軽く』という作品には、ピアニストや記者、放送局のPDなどの演技をしたことがない人たちが出演している。

「僕の映画には、俳優ではない演技経験のない方がよく登場します。でも、映画を観る人は俳優じゃないとは思わないはずです。特に海外の方なら言葉もわからないので、素人が出ているとは思わないんですよ。僕は初めてカメラの前に立つ人たちの、不器用な眼差しや居心地の悪さというのを映像に入れ込みたいんです。実はそれは、俳優には出せない自然さを生むんですよ。最初は緊張していますが、『気楽にやっていいよ』って話しかけたりすると、ある瞬間から、その人たちがまるで自分の日常のように振る舞い始めるんですよね」。

「タイトルは創作の原点、言葉の響きが作品を形づくる」

劇中で「映画の監督たちが映画のタイトルをつける時、 すごく悩むと思う」というセリフがある。これまでにタイトルに悩んだ作品を聞いてみると、ユ・ジュンサンは、『映画のタイトルを最初に思いつかなければ始められない。タイトルはいつも最初に浮かびます。それは自分でもよくわからないんです」と語り、日常生活でふと降ってきた言葉から、少しずつ形にしていくそうだ。音楽ではどうだろうか。

「僕はいつも音楽を先に作って、タイトルを思い浮かべるんです。実は曲のタイトルもいろんなタイトルが浮かんでくるんですけど、なぜそんな言葉を思いついたのか、自分でもわからないことが多いんです(笑)。(カバンからスマホを取り出して)最近作った曲のタイトルはブルーベルベットのリボンに垂れる光の反射で…”。こういうタイトルって、日常で絶対に聞かないタイトルですよね。でも、そういうタイトルを付けてから、なぜこんなタイトルが浮かんだのか、曲とタイトルを繋げるために何度も曲を聴いて、それを紐解いていけば、編曲もスムーズに進めることができます。そういったことが僕には自然なことなんです」。

『羽のように軽く』では、日常を記録した映像が登場する。ユ・ジュンサンが普段、どんなものを記録しているのかを聞くと、「歳を重ねたせいかわかりませんが、花をよく撮ります。それから、美術館に行ったら絵を見るもの良いですが、その建物や周りの風景を撮るのが好きなので、日々過ごしている中でそういったものを記録しています」と語った。

今回の2作品には、タイトルを含めて手書きのフォントが字幕で使われており、その「人の存在感」が独特の温かみを醸し出している。

「今回、タイトルやクレジットも全部、手書きにしました。手書きには、人の存在感があるじゃないですか。人がつくったもの、自然な形、そういうものを見せたかったんです」と説明した。

また、撮影では人工的な照明は使わず、俳優にも無理な演技を求めない。

「照明もできるだけ使いません。自然光だけで、その人の素の表情を映したいんです。だから、顔が見えるくらいの街灯くらいの光くらいで構いません。それが私の映画の原則なんです。そして、撮影を共にする人には絶対に無理をさせたくない。全員が楽しみながらやれる環境でないと意味がないんです。一当百という言葉がありますが、僕の映画ではまさにそれで、本当に少ない人数で撮影をしています。実際に映画を撮ろうとなったら、ものすごい機材を持って行ってスタッフも数十人と連れて行かないとなりませんが、僕は旅を楽しみながら最小人数で撮影しています。これまでに、釜山、モンゴル、日本の富士山、アメリカなどで撮ってきましたが、その時も旅を楽しみながら撮影していきました。でも少人数なので、大変なことはありました。つい最近撮った映画では、3か月くらいかけて長編映画を撮ったのですが、マネージャーは本当に苦労していました。撮影の合間に仕事の連絡を受けながらやっていたので。撮影していて、カット!って声が掛かると同時にマネージャーがケータイではい、いま撮影中でして…”ってほかの仕事のスケジュールを調整したりしていました(笑)。でも、そうやって苦労した甲斐もあって、映画もよく仕上がったのだと思います。一緒に頑張るというチームワークが僕の映画では必要になります」。

新たな世界を描くユ・ジュンサンの挑戦

ユ・ジュンサンに今後撮りたい映画のジャンルについて尋ねた。

「最近撮った映画はについての素材で、その前に撮ったものでまだ発表していないのですが、地球に住む少女が地球から百5億も離れた惑星の少女と出会う物語です。それは長編映画でベトナムで撮りました。今は、上映する映画祭を探しているところです。東京国際映画祭に話をしておいてください(笑)」。

また、最近撮った作品についても語ってくれた。

「最近撮った映画では、について考える作品を撮ったのですが、どうしたらを見つめながら明るく幸せに暮らせるのか。その裏には孤独や苦悩がありますが、それをどうやって克服していくのか。誰もがいつかはほこりになるわけで、そういったことを韓国の演劇界の伝説的な方であるパク・ジョンジャを迎えて撮影しました」。

ユ・ジュンサンは俳優であり、監督であり、音楽家でもある。最近では童話も出版したという。

「童話を2冊出しました。カナダラシリーズで、9冊まで出す予定です。10年くらいかけて、ゆっくり描いていきたいんです」。

インタビューの締めくくりに彼は、「今回の機会を通して映画をお披露目することができてうれしいです。これからも俳優としても映画監督としても皆さんにごあいさつしていければと思います。皆さん、「平穏」を探そうとはしないでください。自然に任せれば良いと思います(笑)」と笑顔を見せた。

彼の言葉には、無理せず自然体で生きることの大切さがにじみ出ている。映画も人生も「平穏は静寂にない」というタイトルが示すように、揺れ動く日々の中で見つける小さな静けさや意味が、かえって深い感動をもたらすのだと改めて感じさせられた。ユ・ジュンサンの作品がこれからも多くの人の心に寄り添い、新たな光を届けてくれることを期待したい。

 

取材・テキスト・写真:Zacky

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