10月23日から、日比谷・有楽町・銀座といった日本のエンタメの中心地で開催されていた第36回東京国際映画祭が、11月1日に閉幕を迎えた。
最終日には各賞の発表があり、コンペティション部門では岸善幸監督の『正欲』が、観客賞と最優秀監督賞の二冠に輝いた。
『正欲』は、朝井リョウの同名ベストセラー小説を映画化した作品。『あゝ、荒野』(2017)の岸善幸監督と、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗ら魅力ある俳優陣がタッグを組んだ映画である。
家庭環境、性的指向、容姿など各々異なる背景を持つ者たち。そんな彼らの関係が、あるきっかけで交差していく。「多様性」と言う言葉をあたりまえのように耳にする機会が増えた今の時代に、必要とされる衝撃作だ。
今回『正欲』が出品されたコンペティション部門は、才能あふれる新人監督から熟練の監督までを対象に、世界中から作品を募るもの。今年は114の国と地域から昨年を約250本も上回る1942本の応募があり、厳選された15本のみがラインナップに名を連ねることができるという狭き門だった。
実際に映画を鑑賞した観客の投票によって決まる観客賞は、出演した稲垣吾郎にとっては『半世界』『窓辺にて』に続き、この『正欲』が3本目の栄誉。
重ねて最優秀監督賞も受賞した岸善幸監督は、受賞のステージで「こんなにステキな賞をいただけて幸せです。主演の稲垣さん、新垣さん、磯村さん、みなさんに伝えたいと思います。(監督として)4作目の作品ですが、名誉ある賞をいただき今後の励みになります。これからも、いろいろなテーマで映画を作っていきたいと思います」と笑顔で話した。
監督はこの前日『正欲』の上映後のQ&Aにも登場。まもなく全国公開が始まる同作品をいち早く見たい、監督の話を聞いてみたいという多くの観客が会場を埋めた。
原作のファンが映画を楽しみに待っていたのが手に取るようにわかるほど、質問しようとたくさんの手が上がった。
なぜこのキャスティングになったのかは、みなさん知りたかったよう。岸監督によると「稲垣吾郎さんはこれまでの出演作を見ても、ジェントルマンでエレガントな方だが、そこにどこかしら狂気性も見える。役にうってつけだと思った」と答えた。新垣結衣については、ドラマなどでは明るいイメージだが、それをくつがえすくらいの存在感を示してくれるのではないか、彼女だったらすごくおもしろそうだと考えたという。その期待どおり、これまでにはない新垣結衣の新しい顔が見られる映画でもある。
また「心に残る映画でした」と感想をのべた観客からは、映画の中で印象的だった音、特に水の音について、監督のこだわりをたずねる問いがあった。「スタッフと、水をどう表現するか議論しました」。結果、それぞれのシーンに音楽とは別の意味で音をつけることにし、加工した水の音であったり、リアルな水の音であったりとかなりこだわったそうだ。
同様に映像としての水も、登場人物の心の表現のようにできないかと工夫した、視覚を通してそれが見る人に伝わればうれしい、と語った。
監督が、さまざまな場面で「この映画を見てたくさんの人が、多様性の本当の意味を感じてもらえればよいと思っています」と話してきた『正欲』は、11月10日㈮から全国ロードショー公開される。
取材・テキスト/写真(一部):宮嶋千佳子
■イベント情報
「第36回東京国際映画祭」
2023年10月23日㈪~11月1日㈬
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:www.tiff-jp.net
■作品情報
『正欲』(2023/日本)
監督:岸善幸
キャスト:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香
2023年11月10日㈮ TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド